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小噺六『未来』(上)  

※ご注意
この小噺は第3シーズン(日本では未放送)のお話を元に書いております。
しかしあくまで個人的な妄想と捏造に過ぎないのでそれでも構わない方のみ
どうぞ追記からご覧下さい。元の話とは巷で欝EPと有名なアレです。
あと傾向としてはシリアスです。今までの小噺とはシャレになりません。
全三部構成です(こちらは第一部)つまり無駄に長いのでそちらにもご注意をば。


『ドナテロ、オレは、オレはっ……!!』
『マイキィィィィィィッ!!!』


はっ、と息を呑む音と共にドナテロは覚醒した。
そして目を大きく見開いたまま大きく呼吸を繰り返す。
それによって自分の体にかけていた布団が上下に動くのを視界の隅で見ながらも、
視線はずっと天井に向けていた。心なしか視界がぼやけている。

(…夢……?)

正しくは夢ではなく、過去にドナテロが体験したことの擬似再生。
ドナテロが飛ばされた世界…30年後の未来は絶望しか無い世界であった。
父は死に兄弟は離れ離れになり、友人の一人は死に、他は戦に身を投じた。
戦いに終止符を討つため、決戦に挑んだその結果は………
父に、友に続き命を散らした兄弟の屍を越えてのシュレッダーの打破。
あまりに大きすぎた犠牲。しかし未来のエイプリルは言った。

『この未来は貴方が辿る未来の一つに過ぎない』

自分が30年後の世界に飛ばされた経緯を話した末に、
彼女はパラレルワールドという科学的理論を考えたのだろう。

そう、これはあくまで自分が見るかもしれない一つの未来。

だから、このまま皆で一緒に暮らしていれば大丈夫。

そう言い聞かせて落ち着こうとしても、心臓は悪夢に脅かされたまま
異常ともいうべき早さで律動を続けている。
目もすっかり覚めてしまった。これでは二度寝などできない。


(そもそもどうして僕はみんなの前からいなくなったのだろうか。
 30年前にいなくなったと言っていた。それは…今なんだ。
 僕に一体何が起こるというんだろう?何が…)


そう考えてドナテロは慌ててその考えを振り払った。
何度も結論を出す。これはあくまで未来の一つだ、と。
兄弟達は自分が見てきた世界を互いに話していたが
ドナテロはこの事だけは伝えてはいけないと脳が危惧し、あの記憶を施錠した。


タイムパラドックス。


もし、レオナルドが両目を、ラファエロが左眼を、ミケランジェロが左腕を、
そしてスプリンターがその命を失う可能性があると示唆したら…
彼らはきっとそれに対し警戒し、それらを失う可能性は低くなるだろうけれども
その代わり別のものを失うことになるかもしれない。
何よりこんな暗い話などしたくないとドナテロは考える。
だからたくさんの蝶が舞う極楽浄土へ迷い込んで来たなどと
ふざけた話(いや、でも実際行ってみたい気もする)をして
その場を誤魔化すしかなかった。


でも、いつまでも離れない兄弟の命の花が散る姿。
父と友の墓石。年老いても尚美しく、しかし憎悪の炎を灯した親友の瞳。
なんとしてでもこれは己の胸の内に秘めるんだ。


とにかく今は眠れない。修理作業をしようと思ったが不幸にもパーツが不足していた。
仕方が無い、少し外の世界に行って来よう。
紫のハチマキを締め念のために、と愛用の棒を背に差してドナテロは部屋をあとにした。


居間には誰もおらず、いつも夜の世界を徘徊するラファエロも
今日は家にいるようだ。うるさいいびきが遠くから聞こえている。
足音をたてないように、すっと紫の影は我が家からいなくなった。


マンホールを開け、軽い身のこなしで建物伝いに移動した先は
いつも作業する際に使用するパーツが眠っている宝の山。
そして彼が今直しているものはテレビのリモコン。
チャンネル争いをしたラファエロとミケランジェロの壮絶な奪い合いの成れの果て。
家電製品で最も壊れる頻度が高い哀れなモノである。
細かいパーツが必要なため、ガシャガシャと少々やかましい音が
辺りに響くが近辺に人が住んではいないのでお構いなしだ。
心によぎる不安をかき消すように一心不乱に発掘を続けるドナテロの耳には、
忍び寄る足音など届かなかった。


ミケランジェロはその日も夢の中でタートルタイタンになっていた。
その日「も」というのは、よく見る夢だからである。
しかし、その日見た夢は少し内容がおかしかった。
いつもはエンジェルやキュアリーといったか弱い女性を救出するものなのに、
今回は何故かそれがドナテロで。
しかも、毎回ヒロインを襲う悪漢共を軽く蹴散らせるはずが
ドナテロを包むどす黒い闇だけはどう足掻いても消すことができなかった。
どうにか救おうと手を差し伸べるのだがどうにも届かず、そして
何よりドナテロ自身の様子がおかしかった。
まるで、諦めているような…
そして見る見るうちにドナテロが漆黒の闇に飲み込まれていき…。


(嘘だ、嘘だっ!こんなの悪夢!ドナテロがいなくなるわけ無い!!)


ゴツ、と左手に痛みがはしってミケランジェロの意志は急浮上した。
左手の位置を見ると、壁に殴りつけた形で静止している。
どうやら夢の中で腕を振ったのがそのまま現実でも振っていたらしい。
あまりにも鮮明な悪夢。そして己の体を鋭く突き抜けた悪寒。
慌ててベッドから降りるとドナテロの部屋へ向かった。


きっと映画の見すぎなんだ。映画ではこういうシチュエーションなどよくある。
確かに一度は窮地に陥ってしまうけれど、仲間達の愛で助けられるんだから。
だから…現実の世界でもドナテロは夢の世界で蝶と戯れているに違いない。
そう信じて扉を開けたが、感じるのはひんやりとした空気だけだった。


カキン、カキン、と刀と棒がぶつかり合う音が月下の世界に響く。
どうしてこんなタイミングで、とは思うがシュレッダーの事である。
かつてレオナルドを襲ったように単独行動をしている所を狙うつもり
だったに違いない。どこまでも卑劣な悪党だ。
必死に四方から襲い掛かるフットソルジャーの攻撃を弾き、
カウンターを当て倒していくが突然首元にチクリと鋭い痛みを感じた。
しまった。
思わず左手で痛みの元を探る。…針だ。勿論、ただの針ではない。

これは、麻酔…

ドナテロの意思が一気に遠のく。
倒れる際にビリ、とハチマキが切り裂く音が聞こえたがよく理解できないまま、
深い闇にドナテロの意思は沈められてしまった。

(上・了)

category: 風息(亀忍者)

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